天国に一番近いクルーズ スタークリッパー乗船記

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フランスの画家ポールゴーギャンが楽園を求め、天国に一番近い島タヒチにやってきたが、夢と現実はことなり失意のうちにタヒチを去ったという。自然がいかに美しくとも、そこに営む人々の幸せなくしては理想郷になりえない。

さてこのたび、帆船スタークリパーのクルーズを終えて帰国した。まさに天国に一番近いクルーズではないかと思う。この素晴らしい印象をいつまでも暖めるためには、当分他のクルーズには参加したくない。

この小さな帆船のどこがかくも素晴らしいクルーズを私たちに提供してくれたのだろうか?それは自然の美しさと自然とともに過ごす素敵な空間を乗客とクルーが一体となって創り上げているからだと思う。自然が一流、クルーが一流、そして乗客が一流であって始めて達成可能な領域に到達するのであろう。

いわゆる屋内のパブリック・スペースは小さな図書室とバー、それにダイニングしかない。クルーズにつきものの豪華なアトリウムもなければレセプションすらない。でも楽しさが一杯詰まって尽きるところを知らない。

まずデッキに出て見よう。今までのクルーズシップとは全く異次元の世界がそこにある。帆船の世界だ。出港が興味深い。静かにいつの間にか出港する外国船、盛大にテープを投げて音楽にあわせて踊る楽しい日本船のセイルアウエイ。でも我々に待っているのは我々が帆をあげる作業だ。女性陣が懸命に綱を引っ張る、すると帆がするすると上がり満帆でいざ出港!!この瞬間の醍醐味がたまらない。

さらに潮風に吹かれながらのデッキでの説明会やら講義の数々。そしてマストを縄梯子で登るスリル満天の行事にへさきの網の中での昼寝。なんだかもう天国へ一歩近づいた気分だ。

夜になると涼風に吹かれてデッキで満天の星を眺めて静寂を楽しむ。美しい日の出に美しい日没。下界からは断絶し、気持ちは空に、海に舞い上がる!

毎日エメラルドグリーンの海にくりだし、テンダーボートから直接波うち際に上陸。スタークリパーは美しい浜辺の数々を自分のプールにしているのだ。毎日違った島々を巡る!エメラルドグリーンの美しい海は同じでも陸の風景は毎日変わる!!まさに天国に一番近いクルーズの本領発揮である。

食事も日本人の口に良く会うアジアン・フードが提供される。特に昼食のブッフェは楽しい。デッキブッフェにアジアンブッフェ、さらにはバレンタインブッフェと毎日趣向をこらして提供してくれる。「美しく仕上がったバレンタインケーキに始めてナイフを入れるのは勇気がいるね」と親しくなった乗客が私に囁き、ウインクする。「全くね!ここはオーナ令嬢のマリイにでもやって貰おうか」と返す。でもデザートの時に覗いてみたらケーキは無残な形になっていた。

でも圧巻はビーチに上陸しての浜辺でのバーベキューだ!中には船で昼食をとりたい乗客もいて、その人たちのために、別に船内でも食事が出来る配慮はさすがである。さてバーベキューに話題を戻すと、浜辺は太陽光線が強く適切でない。でもって緑あふれる木陰でのバーベキューとなる。臨時バーもオープンし芸達者なバーテンダーが「バーが開いたよ」と呼び込みをはじめる。ミュージッシャンのシャバがアオコーデオンを奏でながら練り歩く。その後を私は追いかけて大声で一緒に歌う。不思議と英語で歌える歌ばかりだ。なぜハリー・ベラホンテの「さらばジャマイカ」の英語の歌詞を全部覚えているのだろうか・・・楽しい!!この一言につきる。

夜は夜でデッキでの楽しいショータイムである。でもクルー手作りのショーなのだ!!ファッション・ショーあり、蛙レースあり、色々と工夫がなされてとても楽しい。最後に近くなるとクルーと乗客によるタレント・ショウがあった。「数少ない日本代表が出場を」との要請に応えて、出場を決心した。タレントでない私であるから、乗客を引きずり込む作戦に出た。日本人5人に若いスエーデン人クルーに親しくなった乗客に前に出てもらい、あらかじめ作成した歌詞を渡す。歌詞は簡単そのもの!外国人も知っている「上を向いて歩こう」通称「スキヤキソング」に歌詞をつけたのだ。

「スタークリパー、スタークリパー スタークリパーは世界一、スタークリパー、スタークリパー、我々はスタークリパーを愛している」このフレーズを三回、みんなで合唱しようという趣向だ。その間に10秒間程度私がクルーを称える歌詞を入れる。そして最後に「素晴らしいクルーと素晴らしい乗客が見事なハーモニーで我々に忘れがたい思い出を残してくれた。ありがとうスタークリパー」に続いて最後の合唱!!拍手が鳴り止まず、アンコールの掛け声が!!乗客たちは出演者を乗せるのが上手だ!これが欧米の文化であろう。感激この上なかった。

そして後日談!!翌朝多くの人から「昨日はよかったよ」の声がかかる。そして「あなたは楽しんだのか」と心配そうに聞く。「とってもエンジョイしたよ」と答えると心の底からの笑顔で「それは良かった。私たちも楽しんだが、あなたが楽しむことが一番だよ」何という素晴らしい乗客だろうか。

述べたいことは山ほどあるがそろそろこのへんで終わりにしよう。スタークリパーの最大の素晴らしさはクルーと乗客の距離の近さにある。それだけにクルーには一流が求められるのだ。まず若いスポーツチーム。4人のうち3人は今回が初めてで8ヶ月の契約を終えると学校に戻ったりそれぞれの道を歩む。しかし彼らはハンサムで懸命に働く、明るい好青年だ。

そして特筆大書しなければならないのはオーナー令嬢でホテルマネージャーのマリイだ。彼女は若干30歳で船の中でも船長についで二人しかいない四本線を持った責任の高い地位にある。朝5時半のパンの焼きあがりのチェックから要所要所には必ず彼女の姿がある。そして揉め事は見事に彼女が裁き、人望も厚い。業者と美しい顔の「まなじり」を決して激しくやりあっている姿に遭遇した。「コーヒーの品質が悪い」とクレームをつけているのだ。

同行の日本総代理店社長の配慮もあって、夕食を同席させて貰ったがその配慮の素晴らしさには舌を巻いた。それだけ厳格に仕事をこなすかと思うとタレントショウでは難易度のきわめて高いランバダ風のラテンダンスを見事に踊る!なんという素晴らしいホテルマネージャーだろうか。このようなオーナ一族の強い思い入れが帆船によるクルーズをかくも楽しいものにしていると確信した。

最後に一言付け加えたい。「自動車の運転には運転免許が必要」なように、スタークリパーを存分に楽しむには、最低限の語学力と欧米社会の常識を備えることが必須である。一流のものを楽しむにはそれなりの受け入れ態勢が必要だということだ。


藤原雄一郎のクルーズワールド
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